文化講座

第 6回「輪廻…」 ニシオトミジ 氏

2012-03-16

「命のぬくもり」を求めて [自由美術協会会員]ニシオトミジ 氏

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自分史から始まり「いま生きて在る命のぬくもり」といわれる抽象画について、平易で理論的にお話頂き、講座は終始あたたかな人間味溢れるものでした。

今年の第1回目の「サルーテ文化講座」は、3月16日、イベントホールに美術家・ニシオトミジさんを迎え、『輪廻…』と題して開講しました。ニシオさんの代表作『輪廻』シリーズは40年間描かれ、一貫しているのは「いま生きて在る命のぬくもり」。難解といわれる抽象画ですが、平易で理論的な内容に、80人の聴衆は深い感銘を受けました。

1935年(昭和10)、八頭郡散岐村(現鳥取市河原)生まれ。「敵は鬼畜米英」「天皇のために命を捧げろ」と教えた教師が、敗戦でころりと変わり、大人への不信感が一挙に芽生えます。鳥取大学を卒業し、東部の中学校美術教師を勤め、山登りに熱中しますが、足を患い絵画に専念。
「ものは考えようで、病気が美術家にした」と笑います。山で得たのは「自然界は曲線で成立。直線は近道の人工的なもの」という実感でした。

全国の精鋭が競う「自由美術展」で、ニシオさんが考えたのは「選挙の宣伝カー並みに、大音響で自己主張する作品ばかり。
地方作家はそれにどう対処するか」という課題です。結論は「しゃべるばかりではなく、しゃべらない主張。極力描かずに、シンプ
ルな表現で勝負すること」。しかもそんな「無」のような存在が、実は「無限」に通じると信じ、一面のグレーにわずかな曲線を走らせた超現実的な『輪廻』が誕生します。

作品の根底を貫くのは、「命を粗末に扱った少年時代の教育を顧みて、いま在る証である『生』とそれに繋がる『性』の表現。
それを作品として、いかに描くか。作品とは描く人の『品格』『品位』である」とも。また「ニシオ個人が自己主張するよりも、絵の具自体がもともと美しく、なるべく描かないほうが、鑑賞者の自由なイメージが生まれる」ともつけ加えました。逆説的でユニークな発想といえましょう。

講座には一般市民をはじめ、大学教授や専門の学芸員も詰めかけ、2年目に入ったサルーテ文化講座の幅広い定着をうかがわせました。講師の話は鋭く核心を突いて、広く人生や社会にも共通する内容を含み、最も重要な講座の一つに位置付けられるものになるでしょう。次回は5月18日、画家の細川佳成さんが講師です。


■ニシオトミジ氏のプロフィール
◎1935年(昭和10)八頭郡散岐村(現鳥取市河原町)生まれ。敗戦後の「墨塗り教科書」時代、「戦陣訓」を唱えた教師が一変する姿をみて、大人への不信感を募らせ、この幼時体験がものを凝視する原点になった。1957年、鳥取大学学芸学部を卒業。

◎1958(昭和33)年、県立図書館でグループ「0(ゼロ)展」を開く。板や布を焼いたアンフォルメル(非定型の芸術)の手法で、社会への反抗を込めたが、廊下に置いた300号の大作を館長に無断で焼却される。以後「命」の連環をテーマに「無」と「有」、「生」と「性」の根源があやなすシュール(超現実)な世界を制作。

◎1962(昭和37)年「自由美術展」に初入選、以後連続して出品。70年、自由美術協会会員推挙。
75年に自由美術賞受賞。76年から鳥取画廊で、画友と「核」展を開く。96年、県立博物館で大規模な『輪廻展』開催。2002年から葉書サイズの「みる・かく」を毎日習作。東京・大阪・京都・松山・鳥取などで個展、グループ展多数。

◎『輪廻』シリーズは「生きて在る」命のありようがテーマである。グレーの精妙精緻な諧調と、最小限の陰翳が物語るニシオ・ワールドは、人体の一部が宇宙へ通じるように、触覚的で哲学的なイリュージョン(幻想)へ誘う。川上奨励賞、鳥取市文化賞、鳥取県文化功労賞など受賞。(角秋)

 

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