文化講座

第 9回「白磁について」 前田昭博 氏

2012-09-14

「失敗が創造につながった」ヨーロッパ土産話も披露 [陶芸家]前田昭博 氏

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前田さんは芸大を卒業後、帰郷しても指導者はおらず、独立独歩の試行錯誤で苦しかったが「失敗が創造につながった」と語りました。「河原の朝の美しい雪から白磁が生まれた」とも明かし、国内の陶芸展で数々の最高賞を受賞し、世界に羽ばたいてゆきます。
今回はフランス・ロンドンに招かれて帰国した直後、土産話にも満員の聴衆は興味津々でした。講座は終始たおやかな雰囲気に溢れるものでした。

第9回「サルーテ文化講座」は9月14日、陶芸家・前田昭博さんの『白磁について』を聴講しました。前田さんは民芸窯の山陰に、初めて現代陶芸をもたらした先駆者。しかも白磁一本で勝負する、日本の代表的な存在です。今回はヨーロッパに招かれて帰国した直後、ホットな海外の土産話にも、満員の聴衆は興味津々でした。

前田さんは大阪芸大で学びますが、当時の白磁作家は人間国宝の井上萬二ただ一人。帰郷しても指導者はおらず、自信もなく、恩師に相談すると「戦後、好きなことをやって餓死したものはいない。一日一日、記憶に残る人生を」と形破りの激励を受けます。
土で作る陶器には技術的な幅もありますが、石を砕いた硬い磁器には制約が多く、水加減一つでロクロから立ち上がらず、整形で強く押し過ぎると焼上がりでヒビ割れてしまいました。試行錯誤を重ねますが、この「失敗が創作につながった」といいます。回り道も、決してムダにならないということでしょうか。

学友は自己表現のオブジェで、早く世に出ますが消えてゆきます。前田さんはしっかり古典を学び、あくまでも「日常使い」に拘りました。国宝の『風神雷神』は屏風で、日本には昔から生活空間にアートがあったと指摘します。暮らしの中で、かくて「光と影の純粋造形」が誕生します。前田さんは「液体の入る彫刻」とも表現します。

若くして「日本の白磁」を目指した前田さん。東洋独特の「余白の美」に魅せられ、「白磁を意識」して、そこには「思想がなければ」と決意します。簡潔な白で、本質に迫る陶芸。いま世界に羽ばたく前田さんは、多くの示唆を与えてくれるようです。
講座の後半は、ピカソも作陶したフランス・バロリスでのワークショップと、ロンドンでの講演会の模様が上映されました。フレンドリーな交流で「禅と関係があるのか」と突っ込んだ質問も。日本人が見捨てた文化に、外国の人々が関心を寄せています。

こうして受賞や招待が相次ぎ、大英博物館などに所蔵され、国内外の展観でも「あなたの表現したいことがよく出ている」と絶賛されます。最後に前田さんは「鳥取にはなにもないと思ったが、河原に住み、朝の美しい白雪を見て作品ができた」と、話を結びました。

次回は11月16日、彫刻家の石谷孝二さんが講師です。


■前田昭博 氏のプロフィール
◎1954(昭和29)年、鳥取市河原町本鹿生まれ。77年、大阪芸術大学工芸学科陶芸専攻を卒業。帰郷して近くの山にちなむ「やなせ窯」を築き、独立独歩で試行錯誤しながら、新しい「日本の白磁」を目指して作陶に励む。

◎1991(平成3)年、現代感覚の造形が認められ、日本陶芸展「毎日新聞社賞」。96年、東京国立近代美術館特別展「磁器の表現―1990年代の展開」や、99年「日本の工芸<今>100選」パリ展など、国内外への招待出品が始まる。

◎2000(平成12)年、日本伝統工芸展「朝日新聞社賞」。01年「神聖なる白」イタリア展招待出品。04年、日本陶磁協会賞。05年、新匠工芸展「60回記念大賞」。07年、紫綬褒章。国立近美開館30周年記念「工芸の力―21世紀の展望」招待出品。

◎代表作は「白磁面取壷」「白磁鎬大皿」「白磁捻壷」など。1993年、川上奨励賞。99年、鳥取市文化賞受賞。2010年、鳥取県文化功労賞受賞。12年、鳥取県指定無形文化財「陶芸」保持者認定。現在、日本工芸会常任理事、日本工芸会中国支部幹事長。(角秋)

 

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